英国 国家安全保障評価×生態系の崩壊

2026-08-20

英国 国家安全保障評価×生態系の崩壊 図版1

イギリス政府が1月20日に公表した「Global biodiversity loss, ecosystem collapse and national security(世界の生物多様性の喪失、生態系の崩壊と国家安全保障)」という文書を読みました。公表は環境・食料・農村地域省(Defra)で、政府全体の分析官と専門家がまとめたとされています。副題は「A national security assessment(国家安全保障評価)」です。

冒頭にこうあります。「これは科学的な報告書ではない(It is not a scientific report)」。そのうえで、インテリジェンス評価で使われる不確実性の枠組みを当てている、と。情報が不完全だったり、食い違っていたりする状況で意思決定を支えるための枠組みです。7つある主要判断には、分析確信度(高・中・低)が付きます。多くには、確からしさを表す定型の言葉も並びます。

たとえば、こうです。

・いまの生物多様性の損失のペースが続けば、この文書が英国の安全保障にとって重要と位置づけた6つの生態系地域は、すべて崩壊(機能が回復不能に失われる状態)への経路にある……確信度は「高」

・崩壊が始まる時期は、東南アジアのサンゴ礁や北方林で2030年から、熱帯雨林やマングローブで2050年から、という現実的な可能性がある……確信度は「低」

起きているかどうかと、いつ起きるかが、別々の確からしさで示されている。文書は、この確信度について、読み手が意思決定の際にこの評価へどれだけの重みを置くべきかを判断するために使えるものだ、と説明しています。

自分たちの知らなさの範囲まで書いているのも印象的でした。アマゾンは森林減少が20〜25%に達し、気温上昇と森林火災が重なると崩壊する可能性が高い、現在は17%、と書いたうえで、しきい値は科学が特定できている値より高いことも低いこともありうるし、まだ知られていないしきい値があるかもしれない、と続きます。

自然の情報を、意思決定に使える形に変える。私が環境情報化と呼んできたことの、かなり直接的な例だと感じました。「重要である」「配慮する」で止めずに、確からしさの粒度まで揃えて渡す。企業のシナリオ分析でも「で、いつ起きるんですか」と聞かれて止まってしまう場面は多いと思うのですが、この文書はそこを空欄にせず、時期についての確信度は低い、と書いています。

方法論の付録も意外でした。どの生態系が重要かを決める手前で、「どんな特徴を持つ生態系を懸念すべきか」を政府内外の専門家81人の意見で選んでいて、その票数まで載っています。

食料生産を維持するための技術(品種改良から培養タンパクまで)と比べて、生態系を守り回復させるほうが「簡単で、安く、確実である」と書いた一節もあります。技術を否定しているのではなく、研究開発と投資を要する技術との比較として、です。

公表から半年以上たっていますが、8月に入って英国側で改めて言及されているのを見かけて、原文に当たりました。

自然の話が安全保障の言葉になったこと自体より、自然の状態が、確からしさをつけて意思決定の側に渡されたという形式のほうが、私には効いています。

🔗 英国政府の公表ページ(2026年1月20日・PDFと読み上げ対応版): https://www.gov.uk/government/publications/nature-security-assessment-on-global-biodiversity-loss-ecosystem-collapse-and-national-security

🔗 本体PDF(全14ページ・直リンク): https://assets.publishing.service.gov.uk/media/696e0eae719d837d69afc7de/National_security_assessment_-_global_biodiversity_loss__ecosystem_collapse_and_national_security.pdf