水リスク×畜産のバリューチェーン


水の量でいちばん大きいところと、水不足の費用がいちばん出るところは、別でした。
投資家ネットワークのFAIRRが8月17日、上場する畜産大手18社の水リスクを推計した32ページのレポートを公表しています。オーストラリア・ブラジル・中国・フランス・米国の18社で、世界の畜産市場の約2割にあたるそうです。
18社のバリューチェーン全体の2024年の水フットプリントは、推計4,740億立方メートル。その14%にあたる670億立方メートルが、河川や地下水などからの取水です。18社とそのサプライヤーによるこの淡水の取水量は、ブラジルやエジプト1国の年間取水量に相当する、と書かれていました。
内訳が意外でした。慢性的な水ストレスによる費用が、どの段階から出ているかです。
・穀物・飼料の生産は、水フットプリントの41.0%に対して、費用は1.1%
・畜産のうち放牧地は、47.0%(雨などの緑水)と11.0%(河川・地下水などの青水)に対して、費用は8.7%
・畜産のうち家畜の飲用とサービス用水は、水フットプリントの2.0%に対して、費用は89.8%
水を2%しか使っていないところから、費用の9割が出ています。
放牧地の水は、その多くが雨です。足りなくなっても、費用としては表に出にくい。一方で家畜が飲む水と設備で使う水は、量は小さくても、供給が減るとそのまま費用に出ます。レポートも、費用の大部分は飲用・サービス用水の供給減から生じている、と書いていました。量の大きさと、費用への効き方は、別の話なのだと思います。
渇水を入れると、絵がまた変わります。飼料と放牧地は、通常は高い慢性水ストレスを経験しない地域で管理されているが、渇水時には水ストレスへ転じる可能性がある、と書かれていました。2050年の悲観シナリオで急性の渇水を想定すると、慢性では約1%だった飼料の生産が14%(24億ドル)へ、慢性98.5%の内数で約9%だった放牧地の灌漑を伴う畜産が39%(66億ドル)へ上がる、と推計されています。
技術の限界も書かれています。点滴灌漑や水の再利用を今から入れても、設備費と運転費を差し引いたあとで減らせるのは、慢性的な水ストレス費用の9%。仮にその費用を負担しなくてよかったとしても、水消費の減少がコストを減らせるのは最大17%だそうです。
だからFAIRRは、流域単位で自然を使った解決策を入れること、補助金を組み替えること、水の価値を金融の判断に組み込むことを挙げています。ただ、同じレポートが引くFAIRRの2025年報告『Climate and Nature-based Interventions in Livestock』では、農場での自然を使った解決策が受け取っている気候ファイナンスは全体の0.1〜0.2%にとどまる、とされていました。
水の使用量を測るだけでは、どこに手を打つかは決まらないのだと思います。量が大きい場所、費用が出る場所、渇水のときに動く場所。この3つを別々に持っておかないと、優先順位を間違える。環境情報化という言葉で私が考えているのは、そういう持ち方のことでもあります。
🔗 FAIRR プレスリリース(2026年8月17日):
https://www.fairr.org/news-events/press-releases/the-global-livestock-sector-is-under-reporting-on-a-us6-4-billion-water-scarcity-risk
🔗 レポート本文(全32ページ・ダウンロードには登録が必要):
https://www.fairr.org/resources/reports/the-hidden-costs-of-water-scarcity-in-livestock-companies