気候適応×農業×自然共生サイト

2025年5月、長野県上田市にあるシャトー・メルシャンの椀子(まりこ)ヴィンヤードを訪ねました。そのとき現地で聞いた話のひとつが、気温の上昇でブドウの糖度が必要以上に高くなり、ワインらしさが失われてしまう、というものでした。
その畑で共同研究が始まっていたことが、9月8日に発表されました。
キリンと理化学研究所が、暑さと乾燥にブドウが耐える力を高める研究を、2026年4月から椀子ヴィンヤードの一部の区画で進めています。内閣府のプログラムのもとで、研究成果を実際に使える形にするための実証としても位置づけられているそうです。
目的の書き方が、私には印象的でした。
「気候変動下における既存品種の品質・収量維持に資する知見の獲得」
研究が焦点を当てているのは、既存品種の品質と収量を維持し、栽培を継続できる技術につながる知見です。品種の転換を否定しているわけではありませんが、目的の書き方はこちらに置かれています。
背景の説明にも、気になる一文がありました。水を引いて足すという対応はあるが、水の乏しい地域ではその水の確保そのものが課題になる、と。だから限られた水で栽培を続ける技術が要る、という説明です。気候への適応の打ち手が、水の制約にぶつかっています。
この畑には、もうひとつの顔があります。
・使われなくなった荒れ地を、支柱に這わせる仕立てと、畝のあいだに草を生やす栽培のブドウ畑に変えた
・その結果、良質な草原が生まれ、環境省のレッドデータブックに載る絶滅危惧種を含む生態系が育っていることが、農研機構との共同研究で確認された
・2023年10月、環境省が「自然共生サイト」(民間の取り組みで生物多様性が守られている区域)に認定した
訪問して印象に残ったのも、ブドウよりむしろ草原のほうでした。
同じヴィンヤードが、草原と生きものを育てている場所であり、いま気候への適応を試す場になっている。ここから先は私の読みですが、品種を替えるという選択が簡単ではないのは、味や名前の問題だけではないのだろうと思います。あの草原は、いまの栽培のやり方そのものから生まれています。畑の中身を替えるとき、動くのはブドウだけではない。
なお発表資料は「実栽培環境での検証を開始する段階であり、その有効性や応用可能性を慎重に検討していく」としています。結果が出るのはこれからです。
🔗 キリンホールディングスの発表(2026年9月8日): https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2026/0908_01.html
🔗 椀子ヴィンヤードの自然共生サイト認定(認定は2023年10月6日): https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2023/0922_01.html