衛星観測×環境情報化/インフラ点検


日本の国土を撮影できる機会は、JAXAのSAR衛星だけだと1日に2回です。それを増やすために国土交通省が方針に書いたのは、衛星の性能の話だけではありませんでした。国が最初の顧客になって、観測の需要をつくる、という話です。
9月2日に公表された「インフラ分野の衛星データ利用に関する取組方針」(8月26日策定)に、災害時の被災状況把握の課題としてそう書かれています。撮ったあとの解析・判読にも時間がかかる、とも。
SAR(合成開口レーダ)というのは、衛星から電波を出して、地表で跳ね返ってきたものを測る仕組みです。カメラで光を受けるのではないので、夜でも雲の下でも撮れる。しかも同じ場所を繰り返し撮って、返ってきた電波の位相のずれを見ると、地面がどれだけ動いたかを面で捉えられます。国土地理院は、これで日本全国の地殻・地盤変動を定常的に監視しています。方針には、ダムの変位計測や浸水域の判読も並んでいます。
扱っているのは防災だけではありません。環境モニタリングの側にも、具体的な項目が並んでいます。
・藻場のCO2吸収量の把握(ブルーカーボン)
・海面水位上昇による海岸線の後退を、広域・高頻度に見る手法の開発
・河川流域の環境変化の抽出
・水道管の漏水リスクを約100メートル四方の区画で推定するスクリーニング
最後のものには、漏水の発見効率が6倍、調査費用が79%減という数字も付いています。ただしこれは方針の別冊が、上下水道のDX技術カタログに載る特定のソリューションの導入効果として引いているものです。衛星を使えばこうなる、という一般値ではありません。
ただ、気になったのはその手前に置かれた資金の話でした。
方針は、衛星データ利活用の恒久化には膨大な投資が必要で、「政府による初期需要の創出が重要」だと書いています。7月に策定された日本成長戦略でも、防災・インフラ点検分野については政府による調達強化=アンカーテナンシーと、それを通じた民間資金の呼び込みが基本戦略とされている、と。
アンカーテナンシーというのは、もともと商業施設で核になる大型テナントを先に決めて、それを土台に他の店を集める考え方だと理解しています(この言い換えは私のもので、方針に定義は書かれていません)。ここでは国が、その最初の長期顧客になる。
概要資料には、内閣府の資料をもとにした民間衛星の機数の表もあります。QPS研究所9機、Synspective 7機、Axelspace 11機。目標はそれぞれ2030年に36機、2028年以降に30機、2028年に14機。前の2社は4倍前後、Axelspaceは1.3倍ほどの増加を見込んでいる計算になります。
自然や国土を測り続けられるかどうかは、センサーの性能だけで決まるものではないのかもしれません。方針も性能向上や機数増加を前提に置いたうえで、そこに調達の話を重ねています。誰が、いくらで、何年買い続けるのか。観測の頻度は、その側でも決まっていく。
自然や気候の情報を、意思決定に使える形に変えること。私はそれを環境情報化と呼んできましたが、その前段に「そもそも測り続けられるのか」という問いがあるのだと感じています。企業が自然関連の開示や評価で使うデータも、多くはこの層の上に載っています。
🔗 国土交通省 報道発表(2026年9月2日): https://www.mlit.go.jp/report/press/kanbo08_hh_001360.html
🔗 取組方針 本文(別紙2・PDF): https://www.mlit.go.jp/report/press/content/002019716.pdf