気候適応×海洋生態系/記録級エルニーニョ

今回のエルニーニョは、記録級になりそうです。気象庁が9月9日に出したエルニーニョ監視速報によると、8月の監視海域の海面水温は基準値より3.4℃高く、8月としては1949年以降で最も高かった1997年の+3.0℃を上回りました。冬にかけて続く見込みは100%、最盛期は1997年12月の+3.6℃に匹敵する見込みとあります。
同じ日に米国科学アカデミー紀要(PNAS)に載った論説が、海の側の備えを4つに整理しています。13人の著者による論説で、米英の科学アカデミーが共催したフォーラムがエルニーニョを海洋生態系の急変を引き起こしうる現象と位置づけたことを引きつつ、今回の現象を「海洋生態系と管理の制度、観測システムに対する世界規模のストレステスト」と位置づけています。
・備える:漁業管理者は漁獲枠の引き下げを準備する。高温で多くの魚種の生物量と漁獲が減るため、漁獲を抑えることが資源の生き残りと回復の助けになる。海藻を食べるウニを抑える魚など、生態系の要になる種の漁獲も制限する
・守る:影響を受けやすい生物の一時的な移送を計画する。2023〜24年のエルニーニョでは絶滅危惧種の魚25個体を保護し、冷えてから戻した例がある
・学ぶ:前・中・後の比較ができるように観測を組み、対策の結果を失敗も含めて共有する
・変える:衛星や海中の自動観測機(アルゴフロート)など、観測と予測の基盤に長期投資する。完全禁漁の海洋保護区(海の約1.7%)も、予報を待ってからではなく広げておく
過去の例として挙がるのは、1997〜98年と2015〜16年です。南米西岸で、深い層の海水が湧き上がる流れ(湧昇)が乱れてペルーのアンチョビ漁などが閉鎖され、数十億ドル規模の損失が出たこと、コロンビアやザンビアで水力発電が落ちて電力不足になったこと。
私が気になったのは、論説が「価値の高い対策の中には、起きてからでは組めず、数年前から実施したときに最も効くものがある」と書いている点です。捕食者を回復させる禁漁は、効くまでに数年かかることがある、と。
気象庁は、8月の日本の天候にはエルニーニョ現象時の特徴は明瞭に見られなかったとも書いています。天候として実感する前に、監視海域の8月の海面水温は記録を更新しています。日本でこの現象を、天候ではなく、漁業や養殖、水産物の調達の側から先に見ておく理由は、そこにあるのかもしれません。
🔗 PNAS 論説(2026年9月9日): https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2623156123
🔗 気象庁 エルニーニョ監視速報 No.408(2026年9月9日): https://www.data.jma.go.jp/cpd/elnino/kanshi_joho/c_kanshi_joho.pdf