電力系統×暖房の電化/冬のピーク

2026-09-15

電力系統×暖房の電化/冬のピーク 図版1

電力需要のピークを大きく変えるのは、気温の上昇そのものより、暖房の電化のほうかもしれません。米国本土48州の系統運用者53区域(その需要の約98%)の時間別データ(2019〜2025年)を使った論文(Environmental Research Letters・2026年9月8日)が、その規模を見積もっています。

・気温が4℃上がった場合:各区域のピーク負荷の合計は41GW(5%)増える。発電・送電設備への投資は概算で1,880億ドル

・家庭の暖房をすべてヒートポンプにした場合(普及率14%から100%へ):冬のピーク負荷の合計は1〜1.7TW(140〜220%)増える。夏の30%増を合わせて1〜1.6TW(120〜200%)。発電・送電設備への投資は概算で4.0〜6.6兆ドル

増えるのが冬である点が、この論文の主張です。多くの住宅用の空気熱源ヒートポンプ(エアコンと同じ方式で外気から熱をくみ上げる暖房機)は、外気がおよそマイナス10℃を下回ると補助の電熱が必要になり、切り替わったときの消費電力は2〜3倍になりうる、と論文は説明しています。同じ機器が同じ地域でほぼ同時にそうなるので、最も寒い朝と夕方、太陽光が発電していない時間にピークが立つ。系統は、夏のピークがやや大きい型から、冬のピークがはっきり大きい型に変わる、と書かれています。

著者は、太陽光の増設と、需要が高いときだけ動かす天然ガス火力の予備で需要増を吸収できるとする既存のモデルの前提を、冬に限っては成り立たないと見ています。代わりに挙げるのが建物の断熱です。天井の断熱と隙間風の対策だけで電化住宅のピークを15%以上、寒冷地で屋根・壁・床の断熱と高効率の暖房機や給湯器を組み合わせた住宅なら45%減らせるという先行研究を引き、効率のよい暖房機だけでなく、効率のよい建物を系統計画の側に置くべきだと結んでいます。

断りもあります。これは第一次の見積もりで、住宅の暖房・冷房だけを対象にし、区域ごとのピークを足し合わせた数字です。同時に起きるわけではないので、地域間の送電線のつながり(連系)を強めれば必要な発電設備を減らせる可能性がある、とも書かれています。産業や輸送の電化は入っていません。

脱炭素の計画で電化は前提のように扱われますが、電化した先の需要がいつ、どんな形で立つかは、自然の側(冬の寒さ)と技術の側(機器の特性)の両方で決まります。電化を進めるなら、いちばん寒い朝の需要をどう賄うかまで系統の計画に入れておく必要がある。気候対策として選んだ技術の側からも、インフラの持ちこたえ方を読む必要があるのだと思いました。

🔗 論文(Environmental Research Letters 21, 174016・CC BY): https://doi.org/10.1088/1748-9326/aea0ef
🔗 米エネルギー情報局 Hourly Electric Grid Monitor(論文が使った需要データ): https://www.eia.gov/electricity/gridmonitor/