農林水産GX×MRV/技術のトレードオフ

農林水産省が2026年9月17日、「農林水産分野GX技術海外展開パッケージ」(通称 MIDORI∞INFINITY)を Version 2.0 に改訂しました。海外に展開できる技術・取組(企業名つきの一覧が別冊)と、二国間クレジット制度や予算・投融資などの後押しをまとめた文書です。2025年5月に「GHG(温室効果ガス)排出削減技術」の海外展開として作られた文書が、気候変動への適応、循環経済、生物多様性の保全に資する技術を含む「GX技術」の文書になりました。報道発表によると、追加された技術には、バイオスティミュラント、植物工場、陸上養殖、森林を活用した Eco-DRR(生態系を活用した防災・減災)などがあります。測る仕組みである MRV(測定・報告・検証)は初版から「GHG排出削減を支える基盤」として入っていて、v2.0 では見出しが「GXを支える基盤」になり、適応策にも活用できるという一文が加わりました。
私が注目したのは、対象の広がりそのものより、本文に残っている2つの記述です。
・主力の水田メタン削減技術「中干し期間の延長」について、生物多様性に影響を及ぼす可能性(例:トンボの幼生)が指摘されている、と書き、ビオトープや中干しをしない水田の確保、ほ場内の江(田んぼの中に残す水路)の設置で軽減しうる、と続けている
・我が国の二国間クレジット制度(JCM。日本の技術で海外の排出を減らし、その削減量を両国で分ける仕組み)は、農業・畜産分野では活用できておらず、森林分野もプロジェクト2件にとどまる、と書いている
1つの技術を炭素だけで数えると、別の面で失うものが見えません。GXと名前を広げた以上、海外に持っていく技術も、炭素・水・生きもの・収量の複数の価値を扱うことになります。そのうち GHG の削減・吸収の信頼性を支える基盤として、パッケージは MRV を位置づけ、「農林水産分野は不確実性が高く、MRV の重要性が高い分野」と書き、衛星データを使った農林地のモニタリング、水田の自動水管理、営農データを集めるアプリを、海外展開の基盤として挙げています。
技術を売る話に見えて、実は測る仕組みをどう一緒に持っていくかの話に読めました。本文には、気候変動資金のうち農業分野に向かうのは7.2%(2021〜2022年)という数字もあります。クレジットにも投融資にも、測れることが前提になる。この分野に資金が向かうかは、技術と一緒に物差しを持っていけるかで決まる部分がありそうです。
🔗 農水省 報道発表(2026年9月17日): https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/b_kankyo/260917.html
🔗 パッケージ本文 Ver2.0(PDF・88頁): https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/midori_infinity-21.pdf