シカ食害×森林の炭素収支/測り方の欠落

2026-09-22

シカ食害×森林の炭素収支/測り方の欠落 図版1

九州大学の阿部隼人さんらが、シカの食害を受けた森の炭素収支を測った論文を、Forest Ecology and Management に出しました(2026年9月2日オンライン公開・オープンアクセス)。場所は宮崎県の九州大学椎葉研究林。年降水量約4,300mmの急な山地で、1980年代からシカの過密(推定密度は2006年に1km²あたり45頭、2024年で17頭)が約40年続いています。
測ったのは、吸収(純一次生産)から、枯れた有機物の分解による放出と、土壌侵食に伴って区画から横方向に移動する炭素(流出)を引いた収支です。移動した炭素の最終的な行き先(陸上での再堆積、埋没、無機化、川への到達のどれか)までは確定していない、と論文は断っています。林の状態を4つに分け、各4区画で比べています(単位は年間・1m²あたりのグラム炭素)。
・下層植生がある混交林:+317.6(吸収721.9 − 放出164.8 − 流出239.5)
・下層植生を失った林:−80.1(400.2 − 152.5 − 327.7)
・林冠が抜けた林:−749.3(88.2 − 335.9 − 501.5)。吸収は放出と流出の合計の11%しか埋められない
・シカが好まないアセビの低木林:+122.6(554.5 − 143.9 − 287.9)。4区画の平均ではプラスの収支(部分的な回復)だが、低木の量が少なく表土も流出しているため、回復の幅は限られる
私が注目したのは、土壌侵食による流出の大きさです。4つの林すべてで、流出が分解による放出を上回っていました。流出は従来の炭素収支の評価では見落とされがちな経路だが、この土地では主要な放出経路だ、と著者らは書いています。著者は自身の投稿で、収入が減って支出が増え、貯金を取り崩している状態、とも説明しています。
管理への含意も具体的です。下層植生を失った段階が最も効く介入点で、防鹿柵と地表の植生回復をすぐに始めれば、その先の段階への移行を防げる。侵食を止める木製の階段や地表のネットのような局所的な対策は、柵や個体数管理と同じくらい重要だ、と。
森林の炭素吸収を数える仕組み(国のインベントリや、森林のクレジット)に、獣害と土壌侵食という「流出」の側をどう入れるか。測れていなかった項目が数字で見えた以上、次はそこが問われるように思います。なお、この研究は同じ区画を長期に追ったものではなく、状態の違う区画を並べた比較で、1つの地形の16区画に限られます。著者らも一般化には限りがあると書いています。
この論文は、著者の阿部隼人さんのXでの投稿と、千葉大学の深野祐也さんとのやりとりで知りました。シカ柵をJ-クレジットの方法論にできないか、柵で食害が別の場所へ移る「漏出」をどう見るか、というお二人のやりとりから、この投稿の問いの立て方も含めて示唆をいただきました。
🔗 論文(オープンアクセス): https://doi.org/10.1016/j.foreco.2026.124197
🔗 プレプリント版(bioRxiv・2026年4月): https://www.biorxiv.org/content/10.64898/2026.04.20.719128v1