自然クレジット×日本の土地利用/流域

ネイチャークレジット(生物多様性などの自然の価値を単位にして取引する仕組み)を、日本の川と流域でつくるなら、どこで買われ、どこで生まれるのか。土木研究所などの研究者が、日本の土地利用の統計から市場の形を見積もった総説を、河川技術論文集に出しています(J-STAGEで2026年9月30日公開)。
総説は、クレジットを買う側を「購入側」、生み出す側を「創出側」と呼び、それぞれが想定される場面を土地の動きから整理しています。
・購入が想定される中心は、宅地や商業地の開発。新たに宅地になる面積は年約7,000ヘクタール、建て替えなどの更新も含めると年約4万6,400ヘクタールが目安
・創出が想定される場所は、耕作放棄地(2014年の実績で年約1万3,000ヘクタール)、自然共生サイト(2024年度に6,400ヘクタール、累計5万4,500ヘクタール)、そして河川環境の定量目標を掲げ始めた河川。耕作放棄地などでは、ハビタットバンク(クレジットをつくって売る事業)を不動産会社などが営む形を想定
・開発の影響を別の場所で相殺する「地域補償」の本質は不動産取引なので、土地がどう動いているかを押さえる必要がある
私が注目したのは、制度の始め方の提案です。開発の影響を相殺させる規制型の仕組みは、需要は確実に生まれるが、技術的・制度的なハードルが高い。だから、まず企業が環境目標への「貢献」として買う自主的な仕組みから始め、経験を積んでから地域補償に移るのが現実的だ、としています。河川では、生き物のすみかの価値を「河川生物多様性ユニット(RBU)」として数え、計画前より増えた分に証書を出す案も示されています。
総説の最後には、著者らの見立てとして、日本企業は環境そのものより「地域貢献」への意識が高いことに留意して制度を設計すべきだ、とも書かれていました。
海外のクレジット制度をそのまま持ち込むのではなく、日本の土地の動き方と、企業がお金を出す動機の両方から形を考える。自然の価値を資金につなぐ設計は、こういう足元のデータから始まるのだと思いました。
🔗 総説(J-STAGE): https://doi.org/10.11532/river.32.0_139