自然の価値評価×ネイチャーファイナンス/ミティゲーションヒエラルキー

2026-10-02

自然の価値評価×ネイチャーファイナンス/ミティゲーションヒエラルキー 図版1
自然の価値評価×ネイチャーファイナンス/ミティゲーションヒエラルキー 図版2

日本学術会議の分科会が9月28日付で、ネイチャーポジティブの測り方と資金の流し方についての報告書を出しました。題は「ネイチャーポジティブを実装可能にする生態科学:定義・指標・ミティゲーションヒエラルキー、そしてネイチャーファイナンス」、全42頁です。

質の高い自然を守る「回避」の成果は、変化量として見えにくい、という指摘にハッとさせられました。

報告書は、事業の影響を「回避→最小化→復元→代償(残った影響を別の場所の保全で埋め合わせること)」の順に考えるミティゲーションヒエラルキーを土台にしています。そのうえで、劣化した場所を回復させる活動は、短い期間で大きな改善として測りやすい。一方、もともと質の高い自然を守る活動は、出発点からの変化が小さく、改善として表れにくい。この非対称性は、回避を最優先にする考え方と「根本的に矛盾する」と書いています。

資金の話はその先にあります。調査の手間や手法の違いによるかたよりを除いた長期のモニタリングデータがなければ、回避の便益は見えないままになり、資金が回避よりも「測りやすい復元」へ流れる構造的な歪みが生じる。回避にインセンティブがなければ、事業者は回避よりも安価な代償を選び続ける、とも書いています。

対応として書かれているのは、たとえば次のことです。

・現状の生態系の質そのものと、出発点からの改善幅を、組み合わせて評価する

・具体的な開発や劣化の脅威があるときは、「守らなかった場合」を比較対象に置いて、回避された損失を評価する

・回避行為を直接評価・認証して、融資条件の改善や保険料率の引き下げと結びつける

ただし、比較対象の置き方にも注意が書かれています。比較に劣化した場所をわざと選べば、効果を実態以上に大きく見せられて、グリーンウォッシュにつながり得る。だから、比較対象の選び方、測る項目と期間、計算方法を事前に決める、という条件がつきます。

この報告書は、回避の評価に使う閾値や算定式までは示していません。出しているのは、方向と条件です。分科会の報告であって、制度ではありません。報告書は、COP17(10月19日から)など国際的な節目が重なる2026〜2027年を、日本の生態学・生物多様性の研究者コミュニティが、科学的知見を国際標準づくりにつなげる好機としています。

ここからは報告書の話ではなく、読みながら思い出したことです。英国の生物多様性ネットゲイン(BNG)では、開発の前と後の生息地を、量と質で点数にして比べます。基本となる質の要素は、生息地の種類と特徴に基づく独自性、状態、地域にとっての戦略的な重要性の3つです(水路には、さらに2つの要素が加わります)。開発のための仕組みですが、開発前の自然にもあらかじめ点数が付きます。開発の逆向き、つまり今ある自然が残り続けることを、どう測るのか。本報告書からそんな問いを得ました。

読み終えて、測り方とその道具の使い方は、目指す目的やありたい未来から逆算して考えるものなのだと思いました。守られているかけがえのない自然が、これからも残り続ける。そのために、守った分をどう数えるかと、資金をどう流すかは、同時にセットで考える必要があるのかもしれません。

🔗 日本学術会議 報告「ネイチャーポジティブを実装可能にする生態科学」(2026年9月28日付・PDF)
https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf2/kohyo-26-h260928-4.pdf

🔗 英国 環境・食糧・農村地域省(Defra)「Calculate biodiversity value with the statutory biodiversity metric」(BNGのメトリックの公式ページ)
https://www.gov.uk/guidance/calculate-biodiversity-value-with-the-statutory-biodiversity-metric