エネルギー転換の語り方×気候の言葉/存続とレジリエンスの言葉

2026-10-05

エネルギー転換の語り方×気候の言葉/存続とレジリエンスの言葉 図版1

英国下院のエネルギー安全保障・ネットゼロ委員会が9月17日に出した報告書の題は「Zero sum game」。エネルギー転換への国民の支持をどう立て直すかを扱ったものです。

勧告の一つは、エネルギー安全保障・ネットゼロ省の名前から「ネットゼロ」を外し、日常の発信でもこの言葉を減らすことでした。理由として報告書は、この言葉が肯定的な響きの多くを失い、転換の広い目的から注意をそらし、気候対策への反対を集める「避雷針」になっている、と書いています。

報告書が引く世論調査(YouGov・2025年11月)では、

・政府のネットゼロへのコミットメントを支持する人は60%
・2050年ネットゼロの目標に反対する人は約4分の1
・反対する人の75%は、自分の暮らしが悪くなると考えている

では何で語るのか。報告書が挙げるのは次のようなものです。

・電気代、暖かい家、雇用
・エネルギー安全保障と国の安全保障
・健康
・食料安全保障

エネルギー安全保障・ネットゼロ省でクリーン電力2030ミッションの責任者を務めるクリス・スターク氏も委員会で、理由が法定目標の達成ひとつだけなら、この議論には勝てない、と話しています。

この報告書が、言い換えのテクニックの話に留まっていないところが大事だと思います。

・ガスの価格に振り回される状態から抜けることが、エネルギーと国の安全保障になる
・この夏の熱波を受けて、熱による死亡と医療への負荷のうち気候変動によるものの分析を、出しだい公表して健康の論点として示す
・気候は、食料生産への脅威になっている

目標の数字からではなく、すでに起きている制約と、それに備えることの便益から説明し直そう、という組み立てです。

同時に、気候変動委員会の最高責任者は「伝え方だけでは足りない」とも述べていて、報告書も、手の届く価格になることが決め手だと書いています。言葉を替えれば済む話ではない、という留保も入っています。

日本でも、気候や自然の話は「サステナビリティ」の一言で括られて、経営の場では「またその話か」と受け取られることがあります。自然や気候の制約を、事業の存続やインフラのレジリエンスの言葉で語り直す。目標の言葉で支持を失わずに、便益と備えの言葉で語り直せるか。英国の議会が、国のエネルギー政策の看板についてこの問いに向き合っているのは、示唆が大きいと思いました。

🔗 報告書(英国下院 HC 230): https://committees.parliament.uk/publications/55056/documents/305189/default/

🔗 委員会のページ: https://committees.parliament.uk/committee/664/