自然クレジット×市場設計/名乗れるルール

2026-10-05

自然クレジット×市場設計/名乗れるルール 図版1
自然クレジット×市場設計/名乗れるルール 図版2

生物多様性クレジットは、自然の回復や保全の成果を単位にして売り買いする仕組みで、昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)の目標19でも、民間の資金を呼び込む新しい仕組みの一つに挙げられています。ただ、欧州の取引の多くはまだ実験的で、供給が需要を大きく上回っている。npj Biodiversity に載った論文で、市場の参加者がそう話していました。

論文はスウェーデン王立工科大学、ストックホルム大学、オックスフォード大学の研究者によるもので、文献の調査と、市場の参加者や専門家8人への聞き取り(2025年3〜4月)から、クレジットと市場に要る条件を整理しています。

クレジット1単位に求める条件は5つです。

・測定とモニタリング
・永続性
・追加性
・リーケージ(よそへの悪影響の移動)の最小化
・環境と社会のセーフガード

市場の側では、取引する権利について、明確に定義されていること、公平に配分されていること、移転しやすいことの3つを挙げています。

この論文でいちばん具体的だったのは、需要が育たない理由の説明です。買い手の企業は、クレジットを買って何を名乗ってよいのか(クレーム)が、いつ、どんな条件で言えるのか分からない。だから買う価値が見えにくく、グリーンウォッシュの規制に触れる心配さえある、と聞き取りで出ていました。

著者らは、クレームの種類と時期を、クレジットの種類や発行の方法と結びつけて具体的に定めることを求めています。そのうえで、国の制度の中にクレジットを位置づけたフィンランドを、ほかの国の手本になりうる例として挙げています。

論文は、国の制度に位置づけて、クレジットの生成と利用のルールを明確にした例だと説明しています。ただ、条文上の手続きや登録の仕組みまでは示していないので、法律で確かめてみました。2023年の自然保護法に、土地の所有者が、劣化した場所の回復などで自然の価値を「生み出し」、開発で自然を損なう側がそれで補う仕組みがあります。2026年8月に施行された改正で、その使い道がはっきり2つに分かれました。

・補償:開発などで損なった生息地を、少なくとも損なった分と同等以上に補う
・自然への行い(luontoteko):損なった分とは結びつけず、自主的に自然への責任を示すために使う

どちらも当局が承認の決定を出し、その土地の自然を壊すことを禁じたうえで、不動産登記にも記載されます。生み出された自然の価値が、補償と自主的な貢献のどちらに使われたのかは、公開の登録簿で誰でも確認できます。さらに、サステナビリティ報告の義務があり、生物多様性への影響が大きい企業が「自然への行い」として認めてもらうには、報告の中で、自社の悪影響を避け、減らし、できる範囲で補ってきたことを示している必要があります。

生み出した自然の価値を、特定の損失の補償に使ったのか、認められた「自然への行い」に使ったのかを、行政の決定と公開の登録簿で追える形です。論文が言う「何を名乗れるか」の不確かさに、使い道の区分と記録で応えようとしている、と私は読みました。

もう一つ、利益を出す市場として育つのか、まずは公的な保全や慈善の資金のなかで、成果を測って見える形にする枠組みとして広がるのか。どちらの道になるかはまだ分からない、とも書いています。

クレジットの議論は、1単位の中身をどう厳しくするかに目が向きがちです。でも企業から見ると、買ったものを報告書や対外的な説明でどう書けるかが決まっていないと、動きようがありません。クレジットの価値は、自然を測る精度と、それを名乗れるルールの両方で決まる、ということなのだと思います。

🔗 論文(npj Biodiversity): https://doi.org/10.1038/s44185-026-00161-6

🔗 フィンランド 自然保護法の改正(737/2026・Finlex): https://www.finlex.fi/fi/lainsaadanto/saadoskokoelma/2026/737