電力網×分断と自然/レジリエンス

2026-10-08

電力網×分断と自然/レジリエンス 図版1

国境をまたぐ送電線の価値は、平均で見ると小さく見えます。米コーネル大学のチームが10月1日に Nature Communications に出した論文によると、2015〜2024年にカナダからの電気がニューヨーク州の需要に占めた割合は9.89%でした。

論文は、10年分のニューヨーク州の電力市場のデータと送電網のシミュレーションで、カナダの電気に関税がかかった場合を調べています。2025年1月以降の貿易摩擦で、電力の取引が制約されたり止まったりするリスクが生じたことが背景です。

分かったことを並べると、

・ここでの関税は、カナダの電気の価格に何%を上乗せするかで表しています(元の価格が100なら、55%で155、90%で190)。オンタリオ州からの電気だけにかける場合は約55%、ケベック州からの電気にもかける場合は約90%を超えると、過去の市場条件では、関税の対象になった輸入がほぼ消える
・代わりに州内のガス火力などが増え、電力の市場価格とCO2の排出が上がる
・夏のピークでは、普段ほとんど動かない石油火力の出番が増える
・2022年の冬の嵐(Winter Storm Elliott)をもとに、ガス火力だけが故障していく想定では、カナダが全面的に、その場で応答して送電すると、停電(負荷遮断)が始まるまでに耐えられるガス火力の故障率が40%から55%に上がる

平均では1割でも、いちばん苦しい時間帯の余裕を支えていた、ということだと思います。

もう一つ大事なのは、この電気自体も自然に左右されることです。2023年の終わりには、ケベックの渇水による水力発電の減少、山火事による設備の被害、ガス価格の下落が重なって、電気の流れが一時的に逆になり、ニューヨーク州がケベックへ送る側に回っていました。

電力網のつながりは、関税のような分断にも、渇水のような自然の変化にも揺れる。だからこそ、平均の量ではなく、苦しいときにどれだけ余裕を持てるかで価値を測る必要があるのだと思います。論文は、AIデータセンターの需要の伸びで予備力(いざというときの供給の余裕)が細る可能性にも触れています。

なお、入札データは匿名で、送電網も公開情報から組み立てたものなので、実際とずれうる、と著者は断っています。

🔗 論文(Nature Communications・2026年10月1日): https://doi.org/10.1038/s41467-026-77773-w