野生動物の回復×地域の負担/里地里山の緩衝帯とまちの形

保護の取り組みで野生動物の数が戻ってきたとき、その先で何が起きるのか。米ミネソタ大学の生態学者クレイグ・パッカーさんが10月9日に Conservation Letters に出した論考は、回復の成功そのものが、人との軋轢を強める道筋になりうると書いています。
道筋はシンプルです。
・数が戻ると、なわばりや繁殖の機会を得られない個体が増え、保護区の外へ出ていく
・外へ出た個体が、家畜や農作物、人の安全とぶつかる機会が増える
・ぶつかる回数が増えると、保護そのものへの反対が強まる
例に挙がるのは、欧州・北米のオオカミ、インドのトラ、欧州・北米のクマです。オオカミの軋轢の多くは、昔からいる群れの中ではなく、分布が広がる縁で起きている、とも。軋轢は保護の失敗ではなく回復の副産物だ、という整理です(ゾウは事情が違うとして、主に大型の肉食動物を扱っています)。
論考がいちばん問題にしているのは、費用の偏りです。保護の恩恵は国や国際社会に広く及ぶのに、回復した野生動物の費用は保護区の近くに住む人たちに偏って負わされ、軋轢への対策が地元に「外注」されている。そのうえで、
・頭数だけでなく、年齢の構成や加入率(個体群に新たに加わる個体の割合)、分散の動きまで見張る
・生息地をつなぐ回廊の計画に、動物の移動と軋轢が重なる場所の地図を最初から重ねる
・家畜や作物の防護、保険や補償、すぐ動ける対応チームを、軋轢が起きる前に用意する
の3つを、保護の計画の中核の仕事にすべきだとしています。
日本でも、分布の拡大や市街地への出没を受けて、2024年4月にクマ類(四国の個体群を除く)が指定管理鳥獣(都道府県などが集中的・広域的に捕獲などの管理をする対象)に加えられました。回復の経緯は国や種によって違うので、同じ話として扱うことはできません。ただ、かつて人が里地・里山として使っていた半自然の場所は、人と野生動物の生活圏のあいだの緩衝帯としても働いていた、という話を読んだことがあります。人口が減っていくこれからの日本で、その緩衝帯をどこにどう残し、まちの形をどう変えていくのか、あるいは変えていきたいのか。そうした「想い」を、対話を通して共通の目標や方向性として合意できるかどうか。論考の問う「費用を誰が負うのか」は、日本ではこのチャレンジと重なっていくのだろうな、と思いました。
🔗 論考(Conservation Letters・2026年10月9日): https://doi.org/10.1111/con4.70092
🔗 クマ類の指定管理鳥獣への追加(環境省): https://www.env.go.jp/nature/choju/reinforce/index.html