放棄農地×自然再生の選び方

耕作されなくなった水田を、どんな自然に戻せばいいのか。鳥取大学の飯田一聖さんらが『景観生態学』31巻(日本景観生態学会)に出した論文は、岩手県西和賀町の約5haの放棄水田で、これを決めるための手順を作っています。
背景には大きな数字があります。農林水産省によると、荒れて通常の農作業では作物をつくれなくなった農地(荒廃農地)は、2025年3月末で全国25万6,667ha。そのうち約6割の15万8,674haは、再生利用が困難と見込まれています。論文は、農地として使えるなら耕作されるのが望ましいとしたうえで、それが難しい場所は、生物多様性の高い自然に戻すことも選択肢になる、という立場です。
調査範囲の放棄水田は、耕作をやめてから少なくとも4年がたち、その後の手入れはされていません(一部に耕作中の水田もあり、航空写真と聞き取りで確認)。論文は、放棄後の年数や手入れの有無、平らな地形がほぼ共通しているとして要因から外し、植生・地下水位・地下水の水質・土の性質を調べています(土の電気伝導度が高い地点には、耕作していたころの肥料が残っている可能性も挙げています)。結果は、
・放棄水田の10の植生の区分は、地下水位と土の電気伝導度(土に溶けている塩類や養分の量の目安)で、おおむね説明できた
・これと、42か所の事例から整理された10の自然再生のタイプ(池沼、低茎湿地、粗放水田、里山草地など)を組み合わせ、選ぶ手順をフローチャートにした
・手順では、まず、いまの植生が良い場所は保全し、良い状態に変わりつつある場所は維持する。それ以外の場所は、地下水位、人の手入れ(草刈りや植樹など)の有無、隣にある林から候補を絞り、複数あれば学習・観光・土地所有者といった地域の条件で選ぶ
・実際に西和賀の放棄水田を、いまの植生を保全する場所、池にする場所、湿地にする場所などに区分けできた
論文は、このフローチャートがすべての条件の組み合わせには対応していないことも書いています。そして実現には、住民・企業・行政が管理する仕組みが要り、池を掘るような費用のかかる作業は関心のある企業のリソースや公共事業で、日常の植生の手入れは住民の団体で、という分担を例に挙げています。
放棄農地を自然共生サイトや30by30の候補として考えるとき、「自然に戻す」と一言で言っても、戻し方には幅があります。何に戻すかを、地下水位のような測れる値と、地域で誰が手入れをするかの両方から選ぶ。この順番は、企業が地域の自然再生に関わるときの入り口にもなりそうです。
もう一つ考えたのは、自然に戻す以外の選択肢との組み合わせです。最近は小規模な営農ソーラーも増えています。耕作をやめた土地なので「営農」ソーラーとは呼ばないでしょうが、自然と共生する形のソーラーのような使い方も、選択肢の中に入りうるのかもしれません。そうした知見も増えていくといいなと思います。
🔗 論文(『景観生態学』31巻・J-STAGE): https://www.jstage.jst.go.jp/article/jale/31/0/31_61/_article/-char/ja/