農業の生産性×土地の節約/ジェボンズ効果

農業の生産性が上がれば、同じ量の食料をより少ない土地で作れる。だから森や草地を守ることにつながる。よく聞く話ですが、Royal Society Open Science に10月7日に出た論考(米カンザス州立大学の農業経済学者 Nelson Villoria)は、これがいつ成り立ち、いつ逆になるのかを整理しています。
論考の答えは、生産性の向上は世界全体では土地を節約してきたが、条件によっては農地を広げる方向にも働く、というものです。分かれ目は土地の種類ではなく、その農家が直面する需要が価格にどれだけ反応するか、でした。
・世界全体では、1960年代初めから2010年代半ばまでに作物の生産は3倍になり、農地(牧草地を含む)の増加は11%にとどまった。耕地そのものは2001年以降、約8,000万ha(5%)増えているが、著者の推計では、生産性の伸びが無かったら1991〜2010年に約1億7,300万haの耕地が追加で必要だった。「増えたのに生産性が上がった」ではなく、「上がらなければもっと増えていた」という主張
・違いを生むのは需要の反応。世界全体で見れば、食料が安くなっても食べる量はそれほど増えないので、生産性が上がると価格が下がり、土地を広げる動機が弱まる。一方、世界市場に開かれた地域の農家は、自分たちが増産しても価格はほとんど下がらない。増やした分がそのまま収入になるので、土地を広げる。著者はこれを、蒸気機関の効率が上がって石炭の消費が増えたという観察にちなみ、ジェボンズ効果と呼ぶ
・だから「輸出向けの農地」と「国内向けの農地」が別々にあるわけではない。同じ土地でも、道路や港で大きな市場とつながれば条件は変わる。インドでは、農村の枝道は森林に影響しなかったが、幹線道路で大きな市場とつながった地域では森林が減った、という研究が引かれている
・国の単位で見ると、70か国の大半で、生産性の向上が国内の耕地に与えた効果はゼロと区別がつかないか、増やす方向だった。増やす効果がはっきり出たのはカナダ・米国・アルゼンチン・ブラジルなどの輸出国で、減らす効果が出たのはインド・中国など少数。それでも、増えた国の生産が他国の耕地を押しのける分があるので、世界合計では耕地を減らす方向に働いたと推計している(世界の農業の生産性が1%上がると、世界の耕地は0.34%減る)。ブラジルの開拓前線では、二期作(同じ畑で大豆の後にトウモロコシを作る)の広がりが、新しく開かれた農地の44%(550万ha)を説明するという研究もある
・気になるのは、世界の農業の生産性(収量ではなく、肥料や労働なども含めた投入全体に対する生産の効率)の伸びが、2001〜2010年の年2.00%から、2011〜2020年の1.17%、2021〜2023年の0.45%へと落ちていること
著者は、農業の研究開発への投資を立て直すことと、開拓前線での拡大を抑える政策を、セットで求めています。
ここから考えたのは、効率を上げることと自然への負荷を下げることは、自動ではつながらない、ということです。同じ技術でも、増やした分をどこまで売れるかで、森を守る側にも切り開く側にも働く。企業の調達で言えば、産地の生産性が上がっていることは、それだけでは森を守っている証拠にならない。その産地が、世界市場に向けて土地を広げている途中なのかどうかは、別に確かめる必要があるのだと思います。
🔗 論考(Royal Society Open Science・2026年10月7日): https://doi.org/10.1098/rsos.260431