穀倉地帯の同時不作×食料安全保障/調達の構造

小麦・トウモロコシ・大豆の生産は、限られた国・地域に集まっています。気候変動で、こうした穀倉地帯が同じ年にいくつも不作になったら、世界の価格と各地の食料はどうなるのか。ドイツのポツダム気候影響研究所(PIK)などのチームが Environmental Research Letters に10月8日に出した論文は、28の地域の穀物の貿易と在庫を2週間ごとに動かすモデルで、6万回のシミュレーションをしています。
結果は、
・気温が2℃上がった条件では、不作の年とその後2年間の世界価格の最高値が、過去の気候条件で計算した最高値の上位10%の水準を超える確率が、小麦で1.96倍、トウモロコシで2.70倍、大豆で2.45倍になった
・同じ不作でも、地域ごとの消費のリスクの差には、輸入への依存、調達先の少なさ、在庫の厚さといった食料システムの構造が強く関わっていた。ここで言う消費のリスクは、不作の年とその後2年のうち、悪いほうから1割に入る場合に、穀物の消費が1人あたり年に何メガカロリー、平常より減るかの期待値。飼料などの用途も含む作物のエネルギー換算なので、人が実際に食べる量の減り方そのものではなく、作物や地域を同じ物差しで比べるための指標。著者は、物理的な供給と経済的な手の届きやすさの両面を含む指標だとしている。たとえば中国は、在庫を厚く持つ小麦・トウモロコシでは消費のリスクが小さく、自給率22%で在庫が中程度の大豆では大きかった
・自給率が高ければ安心とも限らない。アルゼンチンは小麦を自給しているが、自分が不作になると代わりの調達先がない
・輸出国でも、守る政策がなければ、世界の需要に引っ張られて国内向けの供給が外へ流れ、国内の消費のリスクが上がる
著者は、このモデルには輸出規制や買いだめなどの政策の反応を入れておらず、過去の食料危機ではそれが混乱を大きくしたので、地域ごとの消費のリスクは控えめな推計だろうとしています。小麦ではロシア・ウクライナ・EUの不作も想定に入っていません。そのうえで、生産と貿易先の分散、在庫の管理、早期警戒の仕組みを挙げています。
ここから考えたのは、食料の安全保障は、自給率を上げる努力だけでは組み立てられない、ということです。調達先を分散させることが中心の戦略になる。そして、地政学的な緊張が高まるいま、食料の輸出に制限をかけて経済安全保障の手段にする動きも現実にあります。この論文は輸出規制のような政策の反応をあえて入れていませんが、著者自身が、それは過去の食料危機で混乱を大きくした要因だと書いています。だからこそ、友好国との関係をどう作り、戦略的な自律性をどう確保するかを考えるうえで、どのような条件のときに、どの国を起点に、どんなリスクが起こりうるのかを、こうしたシミュレーションをもとに意思決定に入れていく必要があるのだと思います。
🔗 論文(Environmental Research Letters・2026年10月8日): https://doi.org/10.1088/1748-9326/aeae54