水害×物理リスクと曝露

2026-10-16

水害×物理リスクと曝露 図版1

2019年の東日本台風(台風19号)が、もう少し東を通っていたら、被害はどれだけ変わっていたのか。東京大学と横浜国立大学のチームが、気象と浸水のモデルで台風を再現し、進路を東西に0.2度ずつずらした81通りで、河川の氾濫による被害額を試算した論文が出ました(Communications Earth & Environment、10月13日)。

結果は、進路のわずかな違いに大きく左右されるものでした。

・実際の進路の再現では、被害額は約1兆1,811億円(うち関東が約7,241億円)

・東へ1度ずれて関東平野に上陸した場合は約1兆9,663億円で、81通りの中で最大。実際の進路の約1.7倍

・進路が0.2度ずれるごとの被害額の差は、平均で約833億円

実際の進路では、台風は山地に上陸し、強い雨がいくつかの流域に分かれました。最悪の進路では関東平野に上陸し、人口の集まる首都圏で浸水が広がっています。どの地域の被害が最大になるかも進路次第でした。関東は東へ1度ずれた進路、近畿(大阪周辺)は西へ1.6度、中部(名古屋周辺)は西へ0.4度ずれた進路で、それぞれ最大になっています。

一方、実際の進路のまま堤防の高さを2割下げた場合と2割上げた場合の差は、全国で約362億円でした。5%刻みで見ると一様に減っているわけではなく、減り方の大半は堤防を15〜20%高くしたところで出ています。ただしこれはモデルの中の堤防の設定を一律に変えた実験で、堤防が役に立たないという意味ではありません。

被害の大きさを決めているのは、雨の強さだけでなく、その雨がどこに降り、そこにどれだけ人と資産が集まっているかなのだと思います。著者も結論で、気象・河川・社会経済の情報をつなげて評価することを挙げています。企業の拠点や取引先、保険の引き受けを考えるときも、ハザードの地図と資産の地図を重ねて、進路ごとの「もしも」を見ておくことが、備えの出発点になりそうです。

🔗 論文(Communications Earth & Environment 7:787): https://doi.org/10.1038/s43247-026-04077-8
🔗 本文PDF: https://www.nature.com/articles/s43247-026-04077-8.pdf