自然アクセス指標の監査×公平性の中身



同じロンドンで、距離の測り方を直線距離から道なりの距離に変えたところ、325万人が新たに「自然に手が届いていない人」の側へ入りました。人口の36.95%です。都市の自然は1か所も減っていません。
都市の「自然へのアクセス」の指標を監査した研究が、8月27日にnpj Urban Sustainabilityで公開されています(受理済みの未校正版)。ベルリン、ケープタウン、サンパウロを詳しく見て、ロンドンで検証したものです。
著者らは、ひとつの達成率の中に隠れている選択を6つに分けました。何を都市の自然として数えるか、どこを入口とみなすか、直線距離か道なりの距離か、どこまでを近いとするか、誰を分母に置くか、どの層を配慮が必要とするか。
動いた幅が大きかったのは、次の3つです。
・どこまでを近いとするか(ロンドン):48.82ポイント
・何を都市の自然として数えるか(ケープタウン):37.34ポイント
・直線距離か道なりの距離か(ロンドン):36.95ポイント
48.82ポイントは、6つの層を足した数字ではありません。しきい値を変えた比較で出た最大幅です。
指標の作り方で数字が動くのは当たり前だ、と思われるかもしれません。私も最初にそう思いました。ただ、この研究が重いのは、そこから先です。
ロンドンの300メートル基準で、自然に手が届いている人の割合は、敷地の輪郭までの直線距離だと92.60%、公式の歩行者入口までの直線距離だと87.61%、その入口までを道なりに測ると50.66%でした。この後ろの2つで「届いていない人」の集合を比べると、共通部分を和集合で割った重なりは0.251。そして道なりの距離で測ると、325万人が新たに届いていない側へ入りました。重なりと新しく入った人数は、同じ比較から出た別々の数字です。
公平性の判定の向きも変わりました。ここでいう公平性の判定とは、社会的に不利とされる地域とそれ以外とで、自然に手が届いていない人の割合にどれだけ差があるかを見ることです。ケープタウンでは、2015年時点の歴史的なインフォーマル居住区の区分を使っています。オープンストリートマップで数えると、不利な側のほうが届いていない人の割合が17.60ポイント高い。公式の広い定義で、境界のサンプル点から道なりに測ると、4.64ポイント低い、という向きになりました。
著者らは、これを「社会の状況が逆転した」と読んではいけない、と明記しています。2015年の区分を使った方法の負荷試験であって、いまの不利を推定したものではないからです。そのうえで、こう書いています。公平性の向きが安定していても、投資すべき場所も、効果の大きさも、打つべき手の種類も、安定しているとは限らない。
ここがいちばん重いところだと思いました。「不利な地域のほうがアクセスが悪い」という判定が正しくても、どこに、いくらかけて、何をするのかは、まだ決まっていない。
著者らの提案は「どれかひとつの指標が正しい」ではありません。監査の単位を、好ましい指標ではなく、行動につながる主張のほうに置く。そのうえで、推奨する仕様と、幅と、公平性の向きが変わるかと、対象から出入りする人と、足りていない運用データを、いっしょに出す。
3都市は目的を持って選ばれたもので、世界の都市を代表するものではない、と著者自身が書いています。測っているのは機会への近さと到達のしやすさで、緑の質や安全性、実際に使われているかまでは測っていません。
見えにくい価値を測って意思決定につなぐとき、いちばん効くのは精度を上げることではなく、どの前提で、誰を対象に測ったかを一緒に出すことかもしれない。そう思いました。
🔗 論文(npj Urban Sustainability)
https://doi.org/10.1038/s42949-026-00470-6
🔗 昆明・モントリオール生物多様性枠組 ターゲット12(都市の緑と青の空間)
https://www.cbd.int/gbf/targets/12