自然接触×心の健康の所得格差


自然によく行く人ほど心の状態がよい、という関連。それがいちばん強く出た所得層は、心の健康の何を測るかで変わっていました。
シドニーとブリスベンに住む18歳から64歳、1,433人を対象にした調査を分析した研究が、8月20日にnpj Urban Sustainabilityで公開されています(受理済みの未校正版)。調査は2021年4月15日から5月15日、最初のロックダウンから約1年後の時期にあたります。
分けて見ると、こうでした。
・うつ、不安、ストレスが軽いほうに寄っていたのは、週に1回以上自然に行く人のうち、中間の所得層
・生活の充実感が高いほうに寄っていたのは、滞在時間が長い人、行き先の種類が多い人のうち、低い所得層
・高い所得層では、どの測り方でも差はほとんどありませんでした
所得が低い人ほど自然の恩恵が大きい、という仮説には名前がついています。equigenesis(イクイジェネシス)という学術用語です。日本語の定訳は見つけられなかったので、そのまま使います。今回の論文はこれを、自然との接触が不利な立場の人に不釣り合いなほど強く働くことで、健康の格差を埋める方向に作用すること、と説明しています。この呼び名の参照元として挙げられているのは2015年の研究で、その筆頭著者リチャード・ミッチェル氏(グラスゴー大学)は、今回の論文の共著者にも入っています。
今回はその仮説を支持する結果でした。ただし著者らは、「equigenesisが確認できるかどうかは、アウトカムと曝露と調整要因をどう測るかに左右される」と書いています。同じデータでも、うつや不安のようなマイナス側の指標と、充実感のようなプラス側の指標とで、関連がいちばん強く出た層が入れ替わったからです。
高い所得層で差が出なかったことについては、天井効果の可能性と、自然以外の場所からも回復の資源を得ている可能性を挙げています。
これは横断調査なので、因果は言えません。心の調子がいいから自然に行けている、という向きも残ります。著者ら自身、次は縦断データでの検証に移るべきだと書いています。なお対象年齢は、要旨では18歳から64歳とされ、方法の節では65歳以下かつ退職者を除く、と書かれています。原典の中で書き方が揃っていません。
私が気になったのは、緑地の効果を「平均」でひとつの数字にしてしまうと、この入れ替わりがまるごと消えることです。誰のための緑かを決めているのは、整備の中身より先に、どの指標で測ると決めた時点なのかもしれません。
🔗 論文(npj Urban Sustainability)
https://doi.org/10.1038/s42949-026-00462-6