緑×健診データ/生物学的年齢

自然が人の健康に効くかどうかを測るとき、物差しを何にするか。この研究は、健康診断の数字を使いました。中国の石家荘という大気汚染の重い工業都市で、職場の緑の量と、健診データから算出した「生物学的年齢」の関係を見たものです。9月3日に Environmental Health Perspectives に出ています(オープンアクセス)。
やり方はこうです。
・2021〜2023年の毎年の健康診断を2回以上受けた、20〜65歳の働く人 11,760人(延べ29,620回)
・血液検査など15項目の指標から、暦の年齢とは別の「生物学的年齢」を算出
・職場の住所を中心に半径500mの衛星画像の植生指数(NDVI)を3年平均し、緑の量とする
・大気汚染は6物質を1km四方の推定値で
結果、暦の年齢に対する生物学的年齢のずれは、3つの群に分かれました。著者の呼び名で、遅い群が33%、中程度が50%、加速群が17%。加速群は、暦の平均年齢41歳に対して、生物学的年齢の平均が55歳でした。3群の違いは主に水準の差で、年齢とともに差が開いていく形ではなかった、と著者は書いています。
職場の緑が多いほど、加速群に入るオッズは低くなっていました(遅い群と比べて、NDVIが1標準偏差増えるごとにオッズ比0.84)。大気汚染の混合は逆向きで、混合の指数が1標準偏差増えるごとに、加速群に入るオッズ比は1.16でした(こちらは加速群と、それ以外の群との比較)。そして、緑と老化パターンの保護的な関連のうち約25%は、緑が多い場所で大気汚染が低いことを介した間接の関連として推定されています。著者は、これは因果経路の証明ではなく、媒介の仮説と整合する統計的なパターンだと明記しています。
数字の読み方は、緑のオッズ比は1より小さいほど加速群に入りにくい、大気汚染のオッズ比は1より大きいほど入りやすい、と読んでください。
留保は著者がきちんと書いています。観察研究なので因果は言えない。緑の量のばらつきが小さい(NDVIの標準偏差は0.04)。曝露は自宅ではなく職場の住所で測っている。身体活動は測れていない。
私が注目したのは、自然側のデータが衛星、人側のデータが健康診断、という組み合わせです。どちらも、この研究のために新しく集めたものではありません。企業や自治体がすでに持っている健診データに、公開されている衛星の植生指数を重ねれば、たとえば健康経営の指標づくりの中で、同じ問いは日本でも立てられるはずです。自然の価値を健康の言葉に翻訳する作業は、新しい測定を始めるより、すでにある2つのデータをつなぐところから始まるのかもしれません。
🔗 論文(Environmental Health Perspectives・オープンアクセス):https://doi.org/10.1021/EHP.6c00004