防災NbS×高齢者の健康

2026-09-12

防災NbS×高齢者の健康 図版1

防災減災のためのグリーンインフラは、被害というコストを減らす話として語られることが多い。そこに「高齢者の健康」という別の価値が乗るのか。中国の研究チームが、既存研究を集めて整理しました(スコーピングレビュー)。9月10日に International Journal of Disaster Risk Science に出ています(オープンアクセス)。

対象は、中国本土で洪水対策のNbS(スポンジシティの雨庭や透水性舗装、湿地再生など)を扱い、60歳以上を含む人たちに聞き取りや調査をした質的研究。2000年から2025年3月までの検索で622件が見つかり、基準を満たしたのは13本でした。うち10本は2020年以降の発表です。

13本に書かれていた健康面の便益は、心理社会的なウェルビーイングと社会的支援(最も多い)、メンタルヘルス、身体活動と移動、環境の質と自立した生活、認知機能(1本のみ)、経済と地域参加の6領域に整理されています。公園や雨庭が会話の場になり、不安が下がり、雨のあとも歩ける。ここまでなら、よくある話に見えます。

この報告から私が持ち帰るのは、その先の5つの空白のほうです。

・地理:13本すべてが都市。農村の高齢者を扱った研究はゼロ

・方法:ほぼすべてが「感じた効果」で、臨床的・客観的な健康指標がない

・概念:高齢者の組み入れは一貫せず、しばしば付随的だった

・主題:認知機能と栄養はほとんど探索されていない

・経済:高齢者本人への金銭的な影響は定量化されていない

つまり、洪水対策の緑が高齢者の健康にもたらす便益は、報告され、知覚されてはいるが、客観的な健康指標ではまだ測られていない。著者は、健康指標を使った縦断研究と、高齢者の健康を最初から目的に置いた設計を求めています。

著者は、この共便益を、排水事業としてではなく、年齢にやさしい地域の基盤としてNbSへの投資を広げる根拠に加えることを提案しています。その根拠が投資判断で通用するには、この空白を埋める測定が要る。防災の緑を、コスト削減の先にある価値で語れるかどうかは、ここにかかっていると思っています。

🔗 論文(International Journal of Disaster Risk Science・オープンアクセス):https://doi.org/10.1007/s13753-026-00741-x