緑の質×加齢×メンタル

2026-09-14

緑の質×加齢×メンタル 図版1
緑の質×加齢×メンタル 図版2

同じ公園を歩いても、そこから受け取るものは年齢で違うらしい、という研究が8月28日に出ました。歩いたあとの気分と関連していたのは、植生の視覚的な複雑さと鳥の声を、その人がどう感じ取ったかでした。

中国・福州の都市公園で、性質の違う3本の道を歩いてもらう準実験です。18〜35歳、36〜59歳、60歳以上を各120人、計360人。

3本のうち2本は公園の中の道で、1本は交通量の多い道路区間でした。自然の2本を歩いた人は、道路を歩いた人より、歩いたあとの気分の伸びが明確に大きくなっています(道路のほうは、比較のための基準として、感じ取れる自然がほぼないものとして扱われています)。

その自然の2本は、生物多様性の高さが違うように選ばれていました。片方は成熟した在来林の内部で、連続した林冠と密な低木層と豊かな草本層がある。もう片方は公園の周縁で、刈り込まれた芝生と整形された植え込みだけで、下層の構造がない。ただし、この2本のあいだで気分の伸びを比べた結果は、論文に出てきません。

経路の分析に使われたのは、道の区分ではなく「その人が、植生の複雑さと鳥の声をどれくらい感じ取ったか」という自己申告の尺度のほうでした(自然の2本を合わせた240人)。「感じ取った緑の豊かさ」→「気持ちが回復した感じ」→「歩いたあとの気分の良さ」という順の関連の強さを、年齢層ごとに比べています。

・若年層 β=0.052(p=0.138)
・中年層 β=0.219(p=0.051)
・高齢層 β=0.574(p<0.001)

βは関連の強さで、大きいほど強い。pは「偶然でもこれくらい出てしまう確率」で、小さいほど偶然とは考えにくい、という読み方をします。統計的に有意だったのは高齢層だけでした。

混雑をどう感じたかの出方も、年齢層で違っていました。回復感に対する係数は、若年層で −0.283(p=0.017)、中年層で −0.375(p<0.001)と負でしたが、高齢層は −0.008(p=0.896)でほぼゼロです。著者らは、高齢者が賑わいを求めているという意味ではなく、他人がいることが安心の合図になっているのではないかという仮説を挙げたうえで、この点は推測の域を出ないので質的な調査が要る、と書いています。

論文の結論に、こうあります。単一の視覚的な緑量指標への依存を解体するものである、と。

緑視率のように緑を「量」で測る運用は、比べやすさの点では優れています。ただこの研究の並びを追うと、話はもう一段あります。公園の中の道と、車の通る道路との差は、はっきり出た。一方で、自然の2本のあいだ、つまり林の質の高低で気分の伸びを比べた結果は、論文に出てきません。出てきたのは、その人がどう感じ取ったかを介した経路のほうで、しかもそれが効く度合いが年齢で違う。

つまり、いい公園を作れば同じように届く、という話ではなさそうです。高齢化した街区の公園を、若い世代が多い街区と同じ物差しで評価していいのか。ここは考えどころだと思っています。

⚠ 横断的な設計で、著者ら自身が「因果のメカニズムではなく構造的な関連である」「3つの離散した年齢群の差であって、加齢の連続的な軌跡は示せない」と書いています。測ったのは歩いた直後の気分と、参加者が自己申告した回復感・生物多様性の知覚で、健康状態そのものではありません。単一の都市公園・単一の季節という限界もあります。

🔗 論文(オープンアクセス): https://doi.org/10.3389/fpsyg.2026.1907289