森林浴の試験設計/環境と運動の切り分け

2026-09-16

森林浴の試験設計/環境と運動の切り分け 図版1

森林浴がストレスを下げる、という話は、運動の効果と切り分けられているのか。中国・広東省の病院や森林公園などのチームが、同じ人に、同じ距離を、森と街で歩いてもらう試験をしました。日本の学会が発行する英文誌 Environmental Health and Preventive Medicine に8月27日に掲載、オープンアクセスです。

設計はこうです。

・健康な18〜45歳の36人を2群に割り付け、片方は森→街、もう片方は街→森の順で参加(無作為化。誰がどちらの環境かは伏せない、いわゆるオープンラベルの試験。2人が離脱)

・どちらの環境でも、午前と午後に2.5kmずつ、同じ強度で歩く

・前日と翌朝に質問票と空腹時の採血。間に1週間の休止期間

結果、森を歩いた後は、知覚ストレス(PSS)が22.3から20.7へ、気分の乱れ(POMS)が104.6から93.2へ下がり、睡眠の自己評価と不眠の重さも改善しました(4つとも、点数が低いほど良い尺度です)。街を歩いた後には、この4つに同じような改善は見られませんでした。森が先でも街が先でも同じで、順番の影響(持ち越し)は著者が検定し、大半の指標で見られなかったとしています。血液では、白血球数や空腹時血糖、中性脂肪が森の後にわずかに下がり、おおむね正常範囲の中の動きです。ストレス反応に関わるとされる副腎のホルモン DHEA-S は、街の後に上がり、森の後は動きませんでした。著者は、街のほうの上昇を、交通騒音や混雑、大気汚染といった環境負荷への代償的な反応の可能性として書いています。

留保は著者が明記しています。36人と少ない。健康な若年成人だけ。見ているのは1日の短期反応。大気汚染や騒音は測っていない。運動の効果は両条件で釣り合わせたが、環境と運動の相乗を完全には除けない。気温や天候については、両地点の年間の平均が示されているだけで、歩いた日の条件は本文からは分かりません。

私がこの試験で見ていたのは、「森が効くか」ではなく「何を揃えて比べたか」です。距離と強度を揃えたことで、差があるとすれば環境の側に寄る。ただ、その環境のどの成分(空気、音、視覚)かは、この設計では分からない。著者も、次は環境の実測(粒子状物質、騒音、樹木由来の揮発性成分であるフィトンチッド)を入れれば切り分けが進む、と書いています。森林浴の科学は、効くかどうかの段階から、何が効いているかを分ける段階に入りつつあるのかな、と読みました。

🔗 論文(Environmental Health and Preventive Medicine・オープンアクセス):https://doi.org/10.1265/ehpm.26-00092