健康経営×家庭の栽培/効果量という物差し

2026-09-16

健康経営×家庭の栽培/効果量という物差し 図版1

健康経営の施策は、職場に入れるものだと思っていました。この報告は、家庭に入れています。千葉大学とカゴメの研究者が、従業員の自宅でミニトマトを育ててもらい、家族との交流と心身の状態がどう動いたかを測りました。日本緑化工学会誌 52巻1号(2026年8月)の技術報告です。

・製造業(化学、非鉄金属、鉄鋼、電子部品、農業機械)、情報通信業、健保組合の7企業1団体から1,110人が参加。分析は家族と同居し、回答に欠損のない523人(平均46歳)

・2025年5月に苗を配り、事前・結実(6月下旬)・収穫(7月中旬)の3時点でオンライン調査

・家族・職場との交流満足、ストレス、気分、主観的健康感、自己肯定感、自己効力感、仕事への集中と活力を、10段階の視覚尺度で

事前と事後を比べると、全指標で有意に改善。効果量(Cohen's d。指標の単位が違っても、事前からどれだけ動いたかを揃えて比べられる数字)は0.22〜0.39で、小から中程度でした。著者はこれを、職場のワーク・エンゲージメント介入54件のメタ分析(Vîrgă ら。平均 d=0.24、「活力」は0.36)と並べ、多くの指標で平均を上回った、としています。

私が面白いと思ったのは、関連の向きを見た部分です。栽培前(5月)と収穫時(7月)の2時点の回答を使い、「5月に家族との交流満足が高かった人は、7月の仕事での交流満足も高いか」と、その逆「5月に仕事での交流満足が高かった人は、7月の家族との交流満足も高いか」を、それぞれ同じ指標の5月の値で説明できる分を除いたうえで調べています(交差遅延パネルモデルという方法です)。結果は、どちらの向きも統計的に有意で、家族から仕事への向きのほうが大きかった。家で実がなるのを楽しみに会話が増え、それが職場に波及する。著者はこれを、家庭領域を起点にした好循環と読んでいます。

ここで言えるのは、時間の前後を含めた関連の向きまでです。同じ人の事前と事後の比較で、育てなかった人たちとの比較ではありません。指標は自己申告。因果については、著者の語も「推察」です。

それでも、健康経営の投資判断の物差しに「効果量」を持ち込み、既存施策のメタ分析と同じ土俵で比べた、という点は残ると思います。緑の価値を、癒しの言葉ではなく、企業がすでに使っている尺度の上で語る型として。

🔗 技術報告(日本緑化工学会誌・J-STAGE):https://doi.org/10.7211/jjsrt.52.123