緑地接触の用量×心の健康/測定の翻訳

2026-09-19

緑地接触の用量×心の健康/測定の翻訳 図版1

都市の緑地に週に何回、何時間行くと、心の健康とどう関係するのか。1980年から2025年までの研究を集め、回数と時間のそれぞれについて曲線にした研究が、Journal of Environmental Psychology の2026年9月号に載りました。この投稿は2026年3月に公開された査読前の版に基づいていて、査読後に数値が変わっている可能性は残ります。

結果はどちらも直線ではなくS字でした。週1回、週1時間で頭打ちの半分に達し、週4回、週4時間で9割、その先はほとんど増えない。結びつきは時間より回数のほうが大きい、というのが著者の読みです。

やったことは3つ。

・3つの文献データベースで9万2,430件を同定し、緑地への接触の量と心の健康の関係を数値で示した78本の曲線(756点)を抜き出す

・回数は週0〜7回、時間は週0〜10時間に揃える

・78本のうち回数39本・時間27本に、直線、べき乗、逆U字、S字の4つの形を当てはめ、S字が最も合うことを確かめる(最寄りの緑地までの距離の12本は少ないので補遺に)

そのうえで薬の用量反応曲線の考え方を借り、最大効果の50%、90%、99%に達する曲線上の量を「基本・十分・最適」と呼んでいます。表では週1回・1時間、4回・4時間、6回・8時間です。

私はこの数字より、曲線が答えていないことのほうが気になりました。3つあります。

・縦軸は、各研究の心の健康の得点を、0=最も悪い、1=最も良い、の共通の範囲に揃えた相対値です。曲線は「どこで頭打ちになるか」を示します。うつ症状の点数が何点下がるか、といった効果の実際の大きさは、この曲線からは読めない、と私は読んでいます

・接触量は全曲線が自己申告、心の健康も87.5%が自己申告の質問紙です。健康な人ほど緑地に行く、という向きは除けません。著者も因果とは書いていません

・「どんな緑地か」は扱っていません。9割超の曲線が都市の公共緑地を対象にしていますが、樹種や手入れの状態の違いは曲線に入っていません

それでも、この曲線が都市計画の言葉になることは分かります。「20分で公園へ」という配置の考え方や、公園の維持管理予算を通すときに、週1回・1時間という数字は根拠として使われるはずです。測れる形にした数字は、意思決定に乗る。乗った数字は、根拠の範囲を越えて独り歩きする。だから翻訳する側は、限定をセットで運ぶ必要があると思っています。次に要るのは、自己申告の回数を位置情報で置き換える計測と、緑の質を曲線に入れる設計だと考えています。

🔗 査読前の版(Research Square・2026年3月・CC BY):https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-9032061/v1
🔗 査読誌版(Journal of Environmental Psychology・2026年9月):https://doi.org/10.1016/j.jenvp.2026.103211