観光・ウェルネス×自然体験の評価/比べる相手の設計

2026-10-03

観光・ウェルネス×自然体験の評価/比べる相手の設計 図版1

リゾートで、雲を眺める2時間と、森の音や匂いに注意を向ける2時間を用意して、宿泊客の気分を前後で測った研究があります。比べた相手は「何もしない人」ではなく、同じ約2時間・同じグループ形式で進行役もつく、自然に注意を向ける要素を含まない別のセッションでした。そして、その対照のセッションでも、気分は良くなっていました。

Tourism and Hospitality に2026年9月に載った、クロアチアの研究です。アドリア海北部のウェルネスリゾートの宿泊客120人をくじで4つに分け、そのうち3つのセッションで前後の測定がそろった84人を分析しています。

・前向きな気分の上がり幅:雲 5.8点、森 4.9点、対照 1.9点

・後ろ向きな気分の下がり幅:雲 5.2点、森 4.8点、対照 1.9点

・指標が多いぶん偶然の差を割り引く補正(多重比較の補正)をしても、雲と森の両方が対照より良かったのは、前向きな気分・後ろ向きな気分・回復感の3つ。雲と森のあいだの差は、はっきりしなかった

著者は、対照でも改善したことを厄介な結果とは見ていません。時間が区切られ、スタッフがつき、日常から離れるだけでも、一時的に楽になりうる。自然のセッションの変化が大きかったのは、注意の向け先が上乗せされたことと矛盾しないが、何が効いたかまでは切り分けられない、と書いています。

リゾートは景色を宣伝しますが、著者が言う工夫は、景色を持っていることではなく、景色との出会い方の設計です(順番・安全・参加の自由・ペース・進行役)。気分の点数とは別に、体験の質も1問ずつ聞いていて、雲は畏敬や心の広がり、森は感覚への没入や地に足がついた感じで高かったそうです(1問ずつの設問による記述的な結果)。

限界も多い研究です。事前登録がなく、参加者も進行役も条件を伏せられず、1つのリゾートで、測ったのは直後だけ。著者のうち2人は森林療法を教え、仕事にもしていると利益相反の欄に書いています。

私が持ち帰りたいのは、自然を使った体験の効き目は、比べる相手の設計で数字の意味が変わる、という点です。何もしない人と比べれば自然の効果に見えるものの一部は、時間を取って人がつくこと自体の効果かもしれない。商品として出すなら、次に測るのは、実際に選ばれるか、もう一度参加するか、なのだと思います。

🔗 論文(Tourism and Hospitality・オープンアクセス)
https://doi.org/10.3390/tourhosp7090288