環境の悪化×行動/デジタルで自然とつなぐ

2026-10-07

環境の悪化×行動/デジタルで自然とつなぐ 図版1

大気汚染が「危険」な水準になる日が増えた月、同じ利用者たちが、植樹につながるスマホのプログラムでの行動を増やしていました。反応が強かったのは、普段あまり使っていない人たちでした。極端な汚染のときは、昔から汚染の多い都市の人たちにも反応が集中していました。

PNAS Nexus に2026年9月に載った、香港大学などの研究です。中国のアリペイに組み込まれた「Ant Forest(アント・フォレスト)」の利用者20万人を、331都市・2019〜2020年の2年分、月ごとに追っています。

仕組みを先に書きます。歩く、公共交通やシェア自転車を使う、使い捨ての食器を断るといった行動が「グリーンエネルギー」というポイントになり、利用者はそれをアプリの中で自分で回収します。貯まると仮想の木と交換でき、提携団体を通じて実際の植樹や保全につながります。2019年までに、中国北西部に約1億本が植えられたそうです。

・大気の質の指数(AQI。数値が大きいほど空気が悪い)が300以上の日が月に1日増えると、回収したポイントの量は5.2%分、回収の回数は3.1%分増えた(どちらも分析した利用者全体の平均に対する割合。200以上の日では1.6%と0.9%)。300以上は米国環境保護庁の区分で「危険」、200以上は「非常に不健康」にあたる

・300以上の日が増えた翌月には、ポイントを木と交換する行動も増えた(200以上では、はっきりしなかった)

・反応は、普段あまり使わない人のほうがずっと強かった

「空気が悪くて家にいるから、スマホを触る時間が増えただけでは」という疑問には、著者は2つの点で答えています。アプリが記録している歩数が汚染の日に減っていなかったこと、そしてアリペイ全体の利用の増え方と比べたことです。

私がいちばん面白いと思ったのは、その先の節です。著者は、地元の空気への不安が、なぜ遠く離れた北西部の乾燥地の植林に向かうのかを問うています。良いことをした気分のためなら、木を植える場所はどこでもいいはずです。ところが極端な汚染への反応は、昔から汚染にさらされてきた都市と、もともと環境への関心が高い省の利用者に、ほぼ集中していました。著者はこれを、北西部の植林が自分の街に届く砂ぼこりを減らす、と信じて動いている人がいるという見方と矛盾しない、と読んでいます。ただ、同じアプリの利用者調査では「良いことをした気分」がいちばん多い動機で、動機の割合までは分けられない、とも書いています。

限界もはっきりしています。測っているのはアプリの中での行動で、家庭の排出が減ったかどうかではありません。対象は利用者だけです。データは運営会社のアント・グループの解析環境の中でしか扱えず、データの提供元と研究対象のサービスが同じ会社でもあります。

自然のために人が動くのは、その自然が自分の暮らしとつながって見えたときなのかもしれません。遠くの森の状態と、自分の街の空気の実感を、同じ画面の上でつなぐ。環境の情報をどう見せるかは、行動の設計そのものなのだと思います。

🔗 論文(PNAS Nexus・オープンアクセス)
https://doi.org/10.1093/pnasnexus/pgag326