森の質×価値評価/何の名前で値段をつけるか

枯れた木を森に残す管理に、いくらなら払うかを全国でたずねた研究があります。たずねるときに説明したのは「炭素を貯める」という機能でした。ところが、回答者が先に「大事だと思う枯れ木の機能」を3つ選んだ結果では、土に栄養を返す、動物のすみかになる、新しい木が育つ場になる、が上位で、炭素を貯めるは4番目でした。
日本森林学会誌に2026年8月に載った、京都大学の大森結衣さんの論文です。気候変動で木がまとまって枯れるリスクが高まるなか、枯れ木を「価値が下がったもの」とだけ見てよいのか、という問いから始まっています。
枯れ木や、生きものがすむ環境の多様さといった森の構造を残しながら、木材生産と、生物多様性や森の働きの維持を両立させようとする森林管理は、保持林業(retention forestry)と呼ばれます。論文によると、米国で始まってヨーロッパや日本にも広がり、実施面積は世界で約1億5,000万haに達するとされています。北欧では残す量に具体的な目安がある一方、日本の森林認証(SGEC)は枯損木などを残すことを規準に書いているものの、数値の目標は示していません。最近は、木材生産と生物多様性の両立に加えて、炭素を森にとどめる施業としての役割も期待されている、と著者は整理しています。この研究は、その保持林業にお金の面から光を当てようとしたものです。
調査の設計はこうです。
・2026年2月、Webのモニター調査で2,106人から回答を集め、1,258人分を分析
・枯れ木を残して管理する人工林の面積を、2025年時点の1%から2050年までに5%に広げる案と、10%に広げる案を示し、基金に20年間払うかを、金額を変えて2回たずねる(仮想評価法という、環境の価値をたずねて金額にする手法)
結果です。
・重要だと選ばれた機能:土への栄養の供給 70.4%、動物のすみか 62.7%、新たな木々が育つ場 62.0%、CO2の貯蔵 36.7%、燃料 32.0%、木材生産 29.3%、景観としての美しさ 6.8%
・1世帯あたりの支払意思(中央値)は、5%の案で年2,182円、10%の案で年2,521円。全国の世帯数を掛けると、炭素を貯める機能として説明してたずねた額からの推計で、5%の案で年約1,200億円
・炭素の機能を高く評価する人は、すみかや土の栄養、次の木が育つ場も高く評価する傾向があった
著者は、炭素の価値として出てきた金額の中に、ほかの機能への価値が含まれている可能性を示唆しています。機能ごとに分けて評価するには、複数の機能を並べて比べる手法(コンジョイント分析)が有効だろう、と。
景観の美しさが最下位だったことにも、著者は触れています。海外の研究で、ヘビは個人的には好まれなくても、生態系での役割から保全は社会的に支持される、という報告があり、枯れ木も、見た目の好ましさとは別に、森の働きの面から社会的に重要と評価されうる、と。
ただ、これは表明された支払意思で、実際に払った額ではありません。対象は調査会社の登録モニターです。
私が持ち帰りたいのは、自然の価値に値段をつけるとき、どの機能の名前でたずねるかによって、測っているものがずれうるという点です。炭素の値段で森の管理を説明すると、人が実際に大事にしている土やすみかの価値が、炭素の数字の中に紛れて見えなくなる。何に払っているのかを分けて見られる設計が要るのだと思います。
🔗 論文(日本森林学会誌・J-STAGE)
https://doi.org/10.4005/jjfs.108.186