自然の恩恵の受け止め方×環境行動と幸福感

2026-10-10

自然の恩恵の受け止め方×環境行動と幸福感 図版1

自然への感謝が強い人ほど、環境のための行動も、生きがいの感覚も高い。10か国5,008人の調査で、そんな関連が出ました。香港科技大学の研究チームの論文で、Scientific Reports に2026年10月3日にオンラインで公開されています(最終編集版への置換前の早期公開版)。

この論文は考察で、環境研究のなかにある一つの懸念に答えようとしています。自然の恩恵を強調すると、人間中心で功利的な見方(自然を人の役に立つものとしてだけ見る見方)を招いて、かえって保全を損なうのではないか、という懸念です。

対象は、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、ドイツ、インド、インドネシア、ナイジェリア、南アフリカ、米国の各約500人です。2024年4月にオンラインで、「自然の支えに感謝したい」といった8項目への賛成度を聞いています。

自然への感謝の強さと、次の項目のあいだに、以下のような相関が見られました(数字は相関係数。1に近いほど強い関連)。

・環境行動:資源の節約(リサイクルや節水など)0.38、身近な人に環境行動を勧める 0.48

・幸福感:過去2週間の気分の良さ(WHO-5)0.33、目的や意味のある暮らしだと感じる度合い 0.53

・自己評価の健康:0.24

年齢や性別、宗教性、自然とのつながりなどを統計で調整しても、資源の節約、周りへの働きかけ、2つの幸福感では、感謝が最も強い関連を示しました。

著者はここから、さきほどの懸念はいつも当たるとは限らない、と書いています。自然の恩恵を知ったとき、当然の権利のように受け取る人もいれば、感謝を覚える人もいる。どちらになるかは、その人が自然や社会との関係をどう捉えているか(世界観)など、まだ調べられていない要因によるのではないか、という整理です。

ただし、1回きりの自己申告の調査です。感謝が先なのか、もともと幸福な人が感謝しやすいのかは分かりません。懸念そのものを確かめた調査でもありません。

これを読んで思い出したのが、2025年1月に私が企画したイベントのパネルディスカッションです。人の一生を超える自然の時間軸に触れたときの畏敬の念や、後の世代に何かを遺したいという気持ち(レガシー動機)、高ければ高いほど良いとはしない「中庸の徳」という東洋的な考え方が、グリーンインフラに支えられたウェルビーイングのポイントとして挙がりました。

自然の恩恵を測って伝える側からすると、受け取る人がそれを「使える資源」と読むか「ありがたい恵み」と読むかは、測り方と同じくらい大事な条件なのかもしれません。畏敬やレガシー動機のように、人が自然との関係をどう捉えているかに光を当てた研究が進むと、この論文が残した問いにも手がかりが出てくるのではないかと思っています。

🔗 論文(Scientific Reports・オープンアクセス)
https://doi.org/10.1038/s41598-026-73988-5

🔗 イベントのレポート(2025年1月・IISE note)
https://note.com/nec_iise/n/n64f2962d7c66