緑地の質×体験×健康の実感/自然の処方先の選び方

2026-10-14

緑地の質×体験×健康の実感/自然の処方先の選び方 図版1

緑地のどんな質が、「健康に良かった」という実感につながっているのか。イングランドで最近緑地を訪れた1万9,814人の回答を分析した論文によると、そのあいだには「訪問中に何を感じたか」が挟まっていて、生物多様性と安全とでは、つながる体験が違っていました。グロスターシャー大学の研究者の論文で、Landscape and Urban Planning に2026年10月7日にオンラインで公開されています。

この研究の背景には、英国で高まる「自然の処方」への期待があります。論文によると、イングランドの心の不調の経済的・社会的コストは年3,000億ポンドと見積もられ、その年の国民保健サービス(NHS)予算の約2倍にあたります。省庁横断のグリーン社会的処方の取り組み(577万ポンド・8,339人)では、1ポンドの投資あたり1.88〜2.42ポンドの社会的価値があったと評価されています。一方で、どんな緑地を処方先に選べばよいのかは、まだはっきりしていません。

データは、英国政府機関 Natural England の全国調査(People and Nature Survey)です。直近の訪問について、次のことをそれぞれ5段階で聞いています。

・緑地の質:いろいろな植物や生きものが見られた/歓迎されている・安全だと感じた/行きやすく手入れされていた/ごみ・犬のふん・落書きが多かった
・訪問中の体験:新鮮な空気や静けさを得るのに良い場所だった/自然に近いと感じた
・健康の実感:体の健康に良かった/心の健康に良かった

まず、緑地の質と健康の実感だけを並べて分析すると、生物多様性・安全・行きやすさは実感とプラスの関連があり、ごみなどはマイナスの関連でした。

次に、訪問中の2つの体験もいっしょに分析に入れると、様子が変わりました。たとえば「いろいろな植物や生きものが見られた」から「健康に良かった」への直接の関連の強さを表す数字は、0.220から0.021に下がりました。代わりに大きく出たのは、「自然に近いと感じた」と健康の実感との関連です。安全や行きやすさでも、直接の関連は小さくなりました。

そのうえで、質ごとに、結びつく体験が違っていました。

・「自然に近いと感じた」と最も強く関連した質:生物多様性
・「新鮮な空気や静けさ」と最も強く関連した質:安全
・ごみ・ふん・落書き:静けさの側とだけマイナスの関連

ただし、この「質から体験へ、体験から実感へ」という順番は、著者が先行研究(自然の中で心が回復するという理論など)をもとに、仮説として置いた枠組みです。分析はこの枠組みのなかで関連の大きさを測ったもので、向きそのものをデータで確かめたわけではありません。著者も、体験が質と実感を因果的に仲立ちしている証拠ではない、と明記しています。しかも、ある時点の調査で、同じ人が同じ訪問について全部答えた結果です。分析できたのも、設問がそろった訪問者だけです。

私はこの「質・体験・実感」という分け方が、緑地を測る側にとって使いやすいと思いました。緑地の面積や種の数を測るだけでは、人の実感まではまだ距離があります。緑地を処方先に選ぶとき、そこで何を支えたいのか(静かに休むことなのか、自然を身近に感じることなのか)を先に決めて、それに合う質を測り、手入れする。そういう順番で考えられるからです。

🔗 論文(Landscape and Urban Planning・オープンアクセス)
https://doi.org/10.1016/j.landurbplan.2026.105812