都市の緑の音環境×体の回復

騒がしい屋上の緑地に、鳥の声を足した30分の休憩は、その日の夜まで体に跡を残すのか。シンガポールの南洋理工大学などの研究チームが、働く人を対象にした野外の実験で調べています。npj Acoustics に2026年10月6日に公開された論文です。
研究の出発点は、屋上庭園のような都市の緑は、交通の騒音で休まる効果が損なわれやすいという問題です。自然の音を足すと心地よさが増すという研究はありましたが、実験室や学生が中心でした。実際の騒がしい場所で、効果がその夜や翌日まで続くかは調べられていませんでした。
実験の概要です。
・場所:8階建ての立体駐車場の屋上にある緑のあずまや。高速道路から約70m
・参加者:住宅開発庁(HDB)を通じて募集した66人のうち、データがそろった39人を分析
・条件:鳥の声あり19人/なし20人。参加者には音を足していることを知らせていない
・測ったもの:手首のセンサーで、前日から翌朝まで心拍変動(HRV)を記録
HRVは心拍の間隔のゆらぎで、この研究では、HRVが高いほど体が回復の側にあると解釈しています。
結果、鳥の声ありの群は、休憩を始めた時刻から深夜0時まで(30分の休憩を含む時間帯)のHRVの上がり方が、なしの群より大きくなりました(前日の同じ時間帯と比べた変化の差で、標準化した値で約0.2。標準化は、人ごとの普段の値をそろえて比べるための目盛りです)。差は寝入りの前後1時間にも残っていました(2つの指標のうち1つで統計的にはっきりした差)。翌朝の目覚めの前後では、差は見られなくなっていました。
ただし、睡眠の質そのものは測っていません。著者も、寝入りの時間帯の差は睡眠の質ではなく、体の反応の持ち越しかもしれないと書いています。人数は39人で、条件の割り振りは申込順でした。
私が面白いと思ったのは、流す音の選び方です。30秒ごとに周囲の音を解析し、2万5,440件の人の評価で学習したAIが「心地よさ」を予測して、流す鳥の声と音量を選んでいます。緑地の状態を、植物の量だけでなく音環境まで含めて測り、手を入れる対象として扱っているわけです。屋上緑化のような小さな緑も、そこに足す音のような手入れを含めて、人の体の反応まで測れるようになると、評価の仕方が変わってくるのではないかと思っています。
🔗 論文(npj Acoustics・オープンアクセス)
https://doi.org/10.1038/s44384-026-00072-7