水産資源の急減×漁業者の暮らしと助け合い

2026-10-14

水産資源の急減×漁業者の暮らしと助け合い 図版1

同じ海の不漁でも、暮らしへの響き方は浜によって違う。兵庫県の播磨灘でイカナゴ漁をする2つの漁協の漁業者に聞き取りをした論文が、その違いを具体的に描いています。『漁業経済研究』70巻2号の論文で、J-STAGEに2026年10月10日に公開されました。

イカナゴは、兵庫では春の「くぎ煮」で知られる魚です。県内の漁獲量は1970年に38,948トンありましたが、2017年以降は2,000トン未満に減り、2024年は過去最低の24トンでした。2024年の播磨灘では、漁の始まりと終わりが同じ日になり、漁期は1日だけでした。

論文によると、漁業者の収入は、一定の漁獲があった2016年以前と比べて8割近く減っています。そのうえで、聞き取りでは、2つの漁協で違う状況が描かれています。

・姫路市の坊勢漁協:多くの種類の漁業を営んでいて、イカナゴの漁期が短くなった分、他の漁業や手伝いで収入を補えている。背景に、同年代の仲間どうしが生涯助け合う「兄弟分」という慣習がある

・淡路市の育波浦漁協:イカナゴとしらすを獲る漁(機船船曳網)が唯一の漁業。船は馬力の制限があって他の漁に転用しにくく、建設の日雇いなど漁業以外の仕事に頼らざるを得ない。65歳以上の割合も約42%と、坊勢(約22%)より高い

著者は、資源の減少を生きものの問題としてだけでなく、漁業の経営と地域の持続性に関わる社会経済の問題として位置づけています。対策として、休漁補償などの所得補償に加えて、坊勢の兄弟分のような、漁業者どうしの緊密な関係を育てることもセーフティネットになりうる、と書いています。

現場の声として紹介されている話も一つあります。海の環境を良くするために海底の泥をかき混ぜて栄養を海中に戻す「海底耕耘」には助成金が出ていますが、その使える時期が、イカナゴの夏眠期と重なっているそうです。夏眠期は、本来なら耕耘を控えるべき時期です。

ただし、聞き取りは各漁協5人ずつの計10人で、組合長が紹介した人です。2つの漁協を比べた事例研究で、何が差を生んだかを統計で確かめたものではありません。

私がこの論文で大事だと思ったのは、自然の状態の変化(獲れる魚の量)が人の暮らしにどう効くかは、生計の幅と人のつながりという「受け止める側の条件」で変わる、という点です。それから海底耕耘の話のように、生きものの暦と制度の暦のずれは、現場の人は知っていても、制度の運用にはまだ反映されていない情報なのだと思います。資源の状態を測るデータと、漁業者の暮らしの状態を、同じ地域の単位で並べて見られれば、支援の打ち方も変わってくるのではないかと考えています。

🔗 論文(漁業経済研究 70(2)・J-STAGE)
https://doi.org/10.60367/gyokei.70.2_71