日々の緑との接し方×双極性障害の前ぶれ

双極性障害では、気分が大きく上がる「躁」や「軽躁」、大きく下がる「うつ」の状態が、しばらく続くことがあります。医療では、こうした期間を「エピソード」と呼びます。ドイツの研究チームが、双極性障害の29人を1年間追い、「エピソードが来る前の兆しを、スマホの位置情報から早くつかめないか」を調べた論文を、npj Mental Health Research に2026年9月24日に公開しています。
なぜ「前の2週間」なのか。論文によると、エピソードが始まる前に気づければ、早めに手を打って、その波を小さく・短くしたり、ことによっては防いだりできる。だから、始まる前の兆しを正確につかむことが大事だ、という立場です。この研究では、臨床医が判定した発症日の前の14日間を「前ぶれの時期」として扱いました。
なぜ「いた場所」なのか。ストレスはエピソードの引き金になることが知られていて、緑地にはストレスを和らげる働きがあるとされます。それなら、日々どれだけ緑のある場所にいたかが、エピソードの起こり方と関係しているのではないか、という仮説です。これまでの位置情報の研究は、訪れた場所の数などの移動のパターンは見ていましたが、「いた場所がどんな環境だったか」は見ていませんでした。
測り方はこうです。
・スマホのGPSを1分ごとにそろえ、いた地点の半径100mの緑地の割合と、衛星画像から求めた緑の濃さ(NDVI)を日ごとに集計
・臨床医が2週間ごとに面接し(1人26回を予定)、気分の状態を判定
・直近14日の「平均」と「振れ幅」が、前ぶれの時期と安定した時期とで違うかを比較
結果は次のとおりです。
・躁(軽躁を含む)の前の2週間:いた場所の緑の量が日ごとに大きく揺れていた。緑の濃さも低めだった
・うつの前の2週間:はっきりした関連はなかった
ただし、精度は臨床で使える水準に届いていません。著者が目安にした「見逃しが半分未満、誤報が5%未満」には入らず、誤報や見逃しがまだ多すぎる、と結論しています。29人・躁のエピソード20回の観察研究で、関連は見えても向きは分かりません。気分が変わり始めたから行動が変わり、いる場所の緑が変わった、という逆の流れもありえます。
つまり、この研究が目指しているのは、緑で症状を和らげることではなく、エピソードを早く見つけるための手がかり探しです。私が受け取ったのは、緑のデータが「住んでいる場所の環境」としてではなく、「その人が毎日どこにいたか」という暮らしの記録として、医療の早期発見の問いに使われ始めている、ということでした。
🔗 論文(npj Mental Health Research・オープンアクセス)
https://doi.org/10.1038/s44184-026-00242-1