放棄農地の自然再生×場所の条件から選ぶ手順

2026-10-17

放棄農地の自然再生×場所の条件から選ぶ手順 図版1
放棄農地の自然再生×場所の条件から選ぶ手順 図版2

耕作をやめた田んぼを自然に戻すとき、池にするか、湿地にするか、草地にするか。それを先に決めるのではなく、地下水位と土の性質という「その場所の条件」から候補を絞り、人がどこまで手を入れられるか、地域にとって何と結びつくかで選ぶ。そのための手順を、岩手県西和賀町の放棄水田で試した論文が、景観生態学に2026年10月10日にJ-STAGEで公開されています。鳥取大学の研究チームです。

背景には、中山間地域で増える放棄農地があります。論文が引く農林水産省の数字では、2025年3月末時点で荒廃農地は全国に約25.7万haあり、そのうち約6割は再生利用が難しいと見込まれています。耕作に戻せない土地を、生きものの多い場所として再生し、地域にとって価値のある自然にする道がある。ただ、これまでの研究は個別の事例や植生の成り立ちの分析が中心で、目の前の放棄農地にどの再生のしかたを当てるかを決める手順がなかったそうです。

調べたのは、越中畑地区の約5haの放棄水田とその周りです。

・39か所に地下水位の観測管を立て、植生・地下水の水質・土を調査
・植生がどの条件で分かれるかを分析すると、おおむね地下水位と土の電気伝導度(養分の多さの目安)で説明できた
・この水と土の条件を、研究チームが先に42事例から整理していた10種類の再生のしかた(池沼・粗放水田・凹凸湿地・山間湿地・里山草地など)と、草刈り・植樹・導水といった人の働きかけの有無と組み合わせ、フローチャートにした

フローチャートには、候補が複数残ったときに選ぶための地域の側の条件も7つ並んでいます。それぞれの再生のしかたが、次のものとどれだけ結びつくかを3段階で評価したものです。

・学習、観光、農業
・立地の不便さ、土地所有者の理解
・地域や企業の関わり、ネイチャーポジティブやグリーンインフラの取り組み

実際の地区に当てはめると、いま良い状態の林や群生地は保全、育ちつつある水辺林は維持、残りの放棄水田は「学びと結びつくなら池や凹凸のある湿地」「農業が続くなら粗放な水田」といった形でゾーニングされました。

限界もあります。1地区・39地点の調査で、植生の区分を当てる決定木の精度は、同じデータへの当てはめで0.64です。地域の側の7つの条件は、先行研究で関係者への聞き取りから作った3段階の評価で、この地区の住民の意向を調べたものではありません。

私がいいなと思ったのは、手段を先に置かない順番です。「ビオトープを作ろう」から始めず、まず水と土を測り、その場所で成り立つ自然の候補を絞ってから、人がどこまで関われるかを重ねる。著者も、池を掘るような費用のかかる作業は企業や行政が、日々の植生の管理は住民の活動団体が担う、という分担の例を挙げています。測ったデータが、その分担を話し合うときの土台になるのだと思います。

🔗 論文(景観生態学・J-STAGE)
https://doi.org/10.5738/jale.31.61